お釣りがない
イングランド国境の町を結びながらウェールズを目指すことに なっていたその日。宿を出てバスターミナルからまずは隣町を 目指すことに。料金は正確に調べていたわけではなかったけれ ど親子2人で大体2〜3ポンドと見て5ポンド札を出したんで す。小銭がなかったからなんだけど、お釣りもそんなに多額で もないし大丈夫かと思っていたのに、運転手さんはお釣りがな い、って困った顔。我々の他には2人ほどの客がいたけど、定 期か老人パスみたいで現金じゃない。一度事務所に戻った運転 手さんは、全部他のバスに持って行かれたって言ってとうとう そのまま出発することに。
「この後乗ってくる客が出す小銭で渡すから…」と、終点まで 行く我々に断ってバスは走り出したのだけれど、そもそも客が ほとんどない。最初一緒に乗っていた人も途中で降りて、目的 の町が近づくにつれて運転手さんのあせりっぷりはじわじわと 高まる一方。
結局我々だけ乗せて隣町のバスターミナルに着くが早いか運転 手さんはバスを飛び出し、そこの事務所で釣銭をゲットして駆 け戻ってきました。
バスに乗る時は小銭を用意して、は鉄則かもしれないけど、バ スの方だって少しくらいは用意してくれててもいいんじゃない かなあ。
そのうちなんとかなる…が、とうとうなんとかならなかったバ スの話でした。









老運転手
イングランド南部の小さい村に宿を取った日のこと。まだ午後 はまるまる残っているから、と少し離れた有名観光地まで足を 伸ばすことに。
鉄道で行くつもりで駅に向かっていたらちょうど村のバス停に バスが来たのを見て急遽乗ってしまいました。運転手さんは白 髪のご老人でちょっとびっくり。「大人一人と子供一人」と言 うと、疑わしげに息子を見て「ほんとに子供?」と念を押しつ つ料金表を出して計算しています。で、しばらくしてまた顔を 上げて「ほんとにほんとに子供?」って。バスでも子供料金は 15才までのはずだから、胸を張って「ええ、13才です」と 言ったんですけど。
バスは小さい村を順に回りながらゆっくりとのんびりと。村の バス停に着くたびに少し時間をとりますが、乗ってくるお客さ んたちも常連さんばかりなのか、運転手さんと皆親しげに言葉 を交わしています。
「ねえ、サンドイッチか何か持ってない? おなか空いたんだ よ」なんて、乗ってきたオバさんにねだったり、途中のバス停 で一度バスを降りてなかなか戻らないと思ったらバスの前でタ バコ休憩してるし。
地元密着はいいけど、バスも客もアバウト過ぎでは、と思った バスの話でした。










タクシー並
イングランドとの国境沿いのウェールズの村を結ぶ路線に乗っ た日のこと。
小さいバスは思いのほか客がいっぱいで賑わっていましたが、 その中に子供ばかりの一組がいました。小学生くらいの子供を 中心にベビーカーに乗った幼児まで。普通大人がついてて当然 の一団です。しかもスーパーか商店で買ってきた荷物もたくさ ん持っています。兄弟でおつかい?…とか首をかしげているう ちに、子供たちはそろそろ目的地らしく運転手さんに声をかけ ていました。
そして着いたのはバス停とはとても思えない新興住宅地の団地 のとある玄関先。子供たちは互いに手助けしながら荷物や幼児 をてきぱきとさばいて降りていきました。ええっ、と思って窓 から見ていると、まさにその家が彼らの家らしく、ドアをあけ て元気よく帰宅の様子。
バス停じゃないけど、子供ばかりのグループだし荷物も多い し、運転手さんも特別扱いしたんだなあ、とちょっと感心した のでしたが。その後もウェールズ各地でバスに乗るたびに同じ ような光景に出会って、あれは子供だからという例外ではなか ったことに気づきました。
田舎だからこそ貴重な足である一方で、都会のタクシーと同じ くらいの気軽な乗り物なんだと納得したバスの話でした。









スクールバス
もともとバスの便数が多くないせいか合理主義なのかウェール ズではスクールバスが路線バスと兼用のことがあります。もち ろん朝夕の通学時間の特定の便だけ。長期休暇中は消えてしま う便だったりもします。
ある時はそれを知らずに一本のがしてしまったことがありまし た。待っていた時間に来たバスに乗ろうとしたら「スクールバ ス」と書いてあって急いでやめたのですが、運転手さんに確認 すればよかったと後悔したものです。
カナーボンから乗ったバスは乗ってみたら制服の高校生ばかり で一瞬びっくりしたものの、見てると普通のお客さんも乗って くるし、ああ共用かと安心しましたが。
はっきり言ってこういう学校の空気に直接触れる機会も貴重か な、とこっそり観察してしまいました。学校帰りの賑やかな会 話が弾む中でまじめそうな子も制服を着崩してお行儀の悪い子 もいて、まあ日本とそんなに変わらないんだと心の中で楽しく なったりして。
ところがあることに気づいてびっくり。一人の女の子が前の席 の友達とは英語で、後ろの席の子とはどうもウェールズ語で話 してるんです。おお、バイリンガル! 同じ学校でも友達同士 でもコトバが違ったりするんだなあ、とちょっと感動したバス の話でした。










恐怖の最終バス1
スノードニアの小さな町に宿を取って、夕方隣町に観光に出か けた帰りのことでした。
泊まっている町への最終便は7時きっかり。これを逃すと帰れ なくなるというちょっとしたスリルを感じつつ町のバスターミ ナルにいた我々にちょっと柄の悪そうなあんちゃんが二人近づ いてきます。町の中心と言いつつ店は全部閉まってるし人通り もまったくないし、こっちに来ないで〜と思ったのに、「あん たたちどこ行きの待ってんの?」とか「今、何時?」とか話し かけて自分たちはバスの時刻表示を見ながらあれこれ調べ始め ました。しゃべる合間に横を向いてピッとつばを吐くんです が、それが見事なくらいはまってて、こっちに敵意はなさそう だけどとにかくびびるばかり。こっちはそれより大事な最終バ スを逃しては大変、と緊張してるのにその口調も態度も乱暴な あんちゃんたちがこわくて気が気じゃない状態です。
そこへいきなりバスが到着。おっ?と思った我々が行き先を見 ようとしたその瞬間、あんちゃんの一人がバス停に寄せてきた バスの正面にいきなり飛び出し、開いたドア越しに運転手さん と大声で怒鳴りあい始めてもうびっくり。
本気なのかリクリエーションなのか(?)わからないけど、 「次の土曜は頭をよ〜く洗って待っていやがれ!」「うちの兄 嫁にあんなことしやがって!」とか双方とも相当コワイことを 言っております。
なんなの、これは〜、とますますパニックの我々。 (続く)









恐怖の最終バス2
(1から続く)
さんざんののしり合った後、そのバスに乗ろうと動きかけた 我々にあんちゃんは「これは違うよ」と妙に親切に教えてくれ ます。と、そこへ別の運転手さんが歩いて登場。少し先に停ま っていたバスに向かうようです。制服の男女二人の運転手さん に、あんちゃんたちはまたからみ始め、「このクソったれ運転 手め」なんて調子でなんだかわきあいあいで悪口を言い合って いる様子。
驚いてる我々に「これだよ」と声をかけてくれたので、こわご わと乗ったら、もちろん乗客はこの4人のみ。二人の運転手さ んたちとの乱暴な会話は走り出しても延々続くし、一番離れた 席で我々は小さくなっているしかありませんでした。
バスは間もなく目的の町に着き、あんちゃんたちは最後までわ あわあ騒ぎながらとあるホテルのパブの前で勝手に降りて行っ てしまいました。我々の宿は実はもう少し先だったのですが、 ついでにもう降りちゃえとばかりに後に続いて、後は真っ暗な 道を小雨の中、宿まで歩きました。
怖かったのは怖かったのですが、妙に芝居がかった状況に夢を 見ていたような気分になった、恐怖の最終バスの話でした。










ドア全開
イングランドからウェールズ国境を目指して一日バスを乗り継 いだ日のこと。1時間近く町のターミナルで待って乗った我々 は左側の最前列、つまりドアのすぐ横の席に着きました。
かなりの客を乗せてターミナルを発車。ところが、発車したの にドアはそのまま開いているのです。
運転手さんを窺うと、普通に運転してるしすぐ横のドアが閉ま ってないことに気付かないはずもないし。
きっとそのうち閉めるよね、なんて言ってたのに、次のバス停 に着くまでずっとそのまま、しかもまた発車後もそのまま。も しかしてドアが故障?
でもバスはやがて市街を離れて幹線道路に乗ります。スピード も当然上げます。なのにドアはやっぱり全開のまま、我々の足 元はそのスピードで流れていく道路面が見えてるんです〜。
その光景ももちろん怖いし、もっと怖かったのは運転手さんが 相変わらず平気で、さらには楽しそうにチョコレートバーをか じりだした時!
ドアは結局、その少し先で何の前触れもきっかけもなく、走り ながらすーっと閉まりました。なぜっ?
ちなみにその運転手さん、なぜかカウボーイハット姿でした。










ベビーカー
ウェールズはアングルシー島のさらに辺境を行くバスに乗った のはバス便の少なくなる日曜日でした。バスを乗り継いだ町の バス停でのこと。
まず我々が乗って、続いて若いお母さんが乗ってきました。ベ ビーカーを押しています。そう、バスの中で。乗り口のステッ プのところではさすがに連れの男性に(夫ではないようでし た)持ち上げてもらってましたが、ステップから通路への段差 はそのまま強引に引っ張り上げて、ドカンドカンとぶつかり放 題です。ベビーカーはいわゆるA型で幅も広く通路ギリギリ、 というかつっかえてますってば。でも無理やりに入るところま で引っ張り入れて、我々の座る席のちょうど横にベビーカーが 来ました。乗ったのはこの2組だけ。せめてベビーカーには赤 ちゃんは乗ってませんでした、というオチを期待したのです が、赤ちゃんはしっかりとそこにいて、この手荒な扱いにも苦 情一つ言わず(当然?)動いたり笑ったりむずかったり…ま あ、普通の反応をしているのには驚くばかり。
降りる時もまた同じ騒ぎをしながらベビーカーとお母さんは降 りて行きましたが、あれはあの人が特別にガサツなのか、それ ともこの国では平均的な赤ちゃんの扱いなのか…。
日本だとバスではベビーカーはたたんで赤ちゃんは抱っこで乗 りましょう…なんて無茶なことを言いますが、ここではまった く逆に、親>赤ちゃん>周囲への配慮、という図式だったな あ、というバスの話でした。









超長距離バス
コーチではなくローカル路線バスでしかも超長距離のバスがウ ェールズにありました。その名はTRAWSCAMBRIA。
我々は何も知らずに途中の町からその先の町まで行くのに利用 したのですが、タイムテーブルを見てびっくり。ウェールズ南 東の端のカーディフのちょっと先から主に西海岸沿いに北上し てスリン半島をかすめつつ北端の半島にあるスランディドノま で一本で結ぶ路線。まさにウェールズ大縦断です。冬だと一日 に北行き南行きがそれぞれ1本。約9時間の長旅です。まあ、 最初から最後まで乗る人がいるとは思えませんが。
なら何のためにこんな豪快な路線があるのでしょう? コーチ が走らないエリアをカバーするため? 我々が乗ったのは観光 バスタイプの大きなバスでしたが、タイムテーブルの写真を見 ると平均的な小さなバスの時もあるようで。
しかし、そういう謎はさておき、このバスが走るルートは大変 スペクタクルな風景を満喫できると言う点でイチオシです。ま さに山の中から海岸沿いまで、渓谷を抜け、湖を眺め、遠い山 並を見はるかし、自然美を思い切り堪能できます。
スノードニアの山すそからスリン半島の先まで見下ろすスポッ トに差しかかった時なんて、まさに言葉を失いました。運転し ながらではここまでじっくり楽しめない(と思われる)ウェー ルズの風景。時間のゆとりさえあればまたぜひぜひチャレンジ したいバスの話でした。