絶叫系
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ウェールズの山中を斜めに横断する長い路線のバスに乗った時
のこと。例によって大型のマイクロバスくらいのサイズのバス
は途中の町で乗客がぞろぞろ降りて行って残ったのは我々親子
だけ。ここから先はさらに山深く入って行くルートに。
片側1車線、と言うのも申し訳ないくらいの狭い狭いカーブ道
をバスはひたすら走ります。バス停も無人なのか、途中途中の
村以外にバス停そのものがないのか、とにかくノンストップ状
態。だから時刻を気にして急ぐ必要は全然ないと思うのに、バ
スは信じられないくらいのスピードで飛ばすんです。生垣が申
し訳程度にあるくらいの道で、窓の下は険しい斜面だったりす
るのに、乗っている我々がカーブのたびに左右に激しく振られ
るのにも構わず、猛スピード。運転手さん自身は人の良さそう
なおじさんで、最初に行き先の相談なんかした時にはのんきそ
うな人に見えたのですが。
とにかく必死に座席の手すりにつかまるしかない我々。この体
勢、何かに似ている…と思ったら、まさにジェットコースター
の座席。荷物が席から落ちないように気を使う点だけが違うく
らい。
結局私はあっちにぶつかりこっちに踏ん張って…とやっている
うちに本気であざだらけになっておりました。
なのに目的地に着いた時に時刻表を確認するとなんとほぼ時間
通り。つまりあんなルートを通っているにもかかわらず、あの
スピードがやはり標準だったってことで。
もっと体を鍛えなければ…、と誓うはめになったバスの話でし
た。
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謎の車庫
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アングルシー島のちょうど真ん中の町Llangefniから乗り換えて
さらに奥に向かおうとした時のこと。折り返し我々が乗ること
になるバスが、発車時刻よりかなり早く町のバス停に到着しま
した。見ると客は全員降りたわけではなく、まだわずかに座っ
た人がいます。運転手さんに、○○に行くんだけど今乗ってし
まっていいのか、と尋ねた上で乗車したのです。
そしてまもなく発車したバスは町の中を循環するコースを回り
始め、さっき残っていた人や我々と一緒に乗った人は順に郊外
のバス停で降りていきます。なるほど、だから時間より早く来
たのか、と納得していたら、最初に乗ったターミナルに戻らず
に町を離れ始めます。ちなみに現在他に客はいません。
「?」と思っているとバスは町から1、2キロほど離れた小さ
な集落の普通の民家の庭先に入って停車してしまいました。運
転手さんは「ここで待ってて」と降りていき、その民家に入っ
て行ってなかなか戻って来ません。その家も隣の家も、ほんと
にありふれた一戸建てでオフィスのようでも車庫のような設備
もないのです。
まさか、運転手さんの自宅だったりしないよね?…と話しつつ
待っていると同じ家から別のおじさんが出てきてバスに乗り、
運転席へ。「行き先は聞いてるから大丈夫だよ」と言ってバス
は発車。再びLlangefniの町に戻ってあのターミナルのバス停に
来たのが、時刻表の時間だったのです。
町の中を循環したのまではいいとして、あの運転手さん交代の
場所は何だったの?と、未だに謎のままのバスの話でした。
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老人専用
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イングランドはOxfordに泊まった時のこと。泊まった宿は少し
離れていて、買物と市内見物をすませた我々は歩くのをあきら
めてバスで戻ることにしました。
こんな賑やかな町で、それも有名観光地なのに、その郊外行き
のバスはマイクロバスでした。バス停の先頭で待っていた我々
はさっさと席に着いたのですが、後から乗ってくる人たちを見
てびっくり。みんな同じ年頃のおばあさんばかりぞろぞろと賑
やかに乗り込んで来るのです。全員が知り合いかのように奇妙
な連帯感さえ漂わせています。ところが全員が乗り込んだとこ
ろでざわめきが起きました。なんと、最後の一人だけ席がなか
ったのです。
当然ながら、この中で一番若いのは私と息子。息子が席を立っ
てそのおばあさんと交代し、バスの中はまたあのなごやかさが
戻り、何事もなかったかのように出発。言葉や態度で変なプレ
ッシャーとかがあったわけではなく、終始楽しそうにしている
ばかりのおばあさん達だったのですが、バスの中が全員おばあ
さん、というのは何かわけがあったのか、それとも偶然だった
のか、今もってわからない不思議な思い出になったバスの話で
した。
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10pの切符
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これはずーっとずーっと昔の話。私が一人旅で初めて北ウェー
ルズ入りした時のことです。
鉄道駅からバスに乗り換え、当時は乗務していた車掌さんに行
き先を訊かれました。「ランゴレン」と答えたら車掌さんは不
思議そうに聞き返します。こりゃ、「L」と「R」がちゃんと
区別できてないから通じないんだな、なんて思いながら一生懸
命舌をあれこれ工夫して発音するのですが、車掌さんはやっぱ
りわからない様子。他に客もほとんどないとは言え、私はあせ
るばかりでした。
するとおじいさんと言っていいくらいの年のその車掌さんはに
っこり笑って「わかったよ」と切符をキカイで出して渡してく
れました。値段は10ペンス。当時の最低料金です。そんな近く
じゃないと思うんだけど、と心の中で思いながら私は10ペンス
で終点のLlangollenに着いたのでした。
そして翌々日同じ路線で元の鉄道駅に戻った時、料金はその何
倍もすることがわかりました。当然ながら。
ウェールズ語の発音が英語のスペルとは全然違うってことをま
るで知らなかった私は、後で車掌さんとのやりとりを思い出す
と本当に恥ずかしい限りなのですが、親切というか気前が良す
ぎるというか、あの車掌さんに今も感謝するばかりのバスの話
でした。
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往復貸切
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北ウェールズ鉄道・バス周遊パスを持って旅をして、その期限
最終日の朝のことでした。
つまり、ウェールズの滞在もこの日でおしまい、後はイングラ
ンドに向かう列車に乗る町に行くだけ、という状態で、最後に
もう一度ウェールズのローカルバスに乗っておきたいと思った
我々親子は、朝食より前の時間に一度宿を出て、朝一番のバス
に乗りに出かけたんです。一度も行ったことのない、さらに山
奥の村に行って折り返しその町に戻って来るバスを選んであり
ました。
その朝、小雨が降っている町のバス停でバスを待ち、やって来
たバスの運転手さんに村の名前のメモを見せ、ここまで行って
折り返しここまで戻るという希望を伝えます。
運転手さんはわかったと言ってバスは出発。朝の6時台、町は
人影なく、全てのバス停を通過して山道に入り、どんどん登っ
て行きます。雨はだんだんとみぞれに、そして本格的な雪に。
終点の村のバス停に着くとそこは白一色でした。
折り返しのためのわずかな時間バスを降りて、誰も見えない村
の中を数分間見て回って再び同じバスに乗ります。
さすがにここから誰か乗るだろうと思っていたのに、乗客はな
し。そのまま我々は元の町に戻って来てしまいました。なんだ
か別世界に一瞬だけ行っていたみたいな気分です。
ともかく、ありがとうと言って降りたわけですが、往復とも自
分たちだけしかいなかったバスはこの時きりでした。
ウェールズ最後の朝に、不思議な時間をぜいたくに過ごせた、
そんなバスの話でした。
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日曜ダイヤ
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アングルシー島に泊まった時、日曜日にHolyheadに行こうとい
うことになったのですが、冬タイムテーブルのせいか幹線道路
を通って行くいつものルートの便が一つもなく、やむなくもっ
と細々としたルートをいくつか乗り継ぎながらすごい遠回りで
向かうことになってしまいました。主に海岸沿いに、小さな
村、ある程度大きな町を結びながら走るルートばかりです。
ところが、途中から、不思議なことにおばさん、おばあさんが
一人また一人と乗って来ます。
なんだろうと思っていたら、理由がやがてわかりました。
Holyheadの町に入る少し手前に大型スーパーTESCOができ
ていたんです。おばさんたちはその前に着くと全員ぞろぞろと
降りて行きました。
日曜日の買い物、週に一度のお出掛けショッピングだったんで
すね。ふだんは村の商店で食料など買っている人たちが、日曜
日を待ってバスに乗って、この大きな店で買い物するのを楽し
みにしていたようです。
我々は町の見物を終えてからTESCOに来て自分たちも買い
物をしようとしました。ところが、わくわくと店の中を見て回
り始めてすぐ、店内放送で「まもなく閉店です」との案内が。
まだ3時台だよ!?と不思議がりつつ表示を確認したら日曜は4
時が閉店、と本当に書いてある。
そんなバカなことって?と文句を言ってもしかたがないので店
を出てバス停に戻ってみたら、このTESCOに寄っていくバ
ス便は日曜の最終が4時20分くらいに設定されているじゃあ
りませんか。
店が閉店したらバスも来ない。当たり前だろうけどこれはキツ
イ。諦めて目的のバス便のある場所まで徒歩で戻りましたが、
日曜ダイヤの特別さを身を持って体験したバスの話でした。
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雨の終バス
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夕方のギリギリに宿を決めてその村への最終バスに乗ることに
なりました。この路線の本来の終点までは行かず、途中で打ち
切りになるのがちょうどその村でした。
出発してすぐに雨が降り始め、暮れて行く山道を越えるうちに
本降りになってしまいました。たくさん乗っていた乗客も一人
また一人と降りていって、目的の村に入る手前で降りた客を最
後にとうとう我々だけになりました。
すると運転手さんはすぐに出ずに私を呼ぶんです。行き先の宿
の場所はどこだっけ、と。
乗る時に行き先確認のためにインフォメーションでもらった宿
のコピーを見せていたのを覚えててくれたんですね。
でも例によって宿への案内は地図ではなく言葉で書いてありま
す。橋を渡って川沿いに右に折れて…というふうに。
運転手さんはそれを確認してから出発し、ほとんど暗くなって
しまった村の中心を過ぎ、目印の橋まで来てまたコピーを見な
がら一軒一軒「ここかなあ、次かなあ…」と徐行して行ってく
れるんです。たぶん終点となるバス停はさっき過ぎてしまって
ます。もうありがたいやら申し訳ないやら。
私が「あ、ここです、きっと」と言うと運転手さんは「ほんと
に? 確かだね?」と念を押して建物の前で停車。
ドアが開いて外はザーザー降りでしたが、心からお礼を言って
バスを降り、バタバタと宿の入り口に飛び込みました。
バスはその細い道なりに去って行ってしまいましたが、路線の
本当の行き先は橋を逆に折れた方向です。きっとどこかでUタ
ーンしないといけないはずで。
思わず手を合わせたくなった親切なバスの話でした。
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片面バス
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イングランドのヘリフォードから国境を越えてウェールズに向
かうバスに乗りました。駅前のターミナル発で、折り返し発車
するバスです。
ところが乗り込んでびっくり。着いたバスの左側の窓ガラスが
全部泥んこなんです。乾いた泥の水滴がガラスに貼りついて完
全にスクリーンを下ろしたよう。それに対して右側の窓ガラス
はピカピカでまったく問題ありません。
私たちは当然右側の席につきました。
そして走り出してバスが街を抜け、郊外の道路を走り始めた時
に窓の謎が解けました。その日はよく晴れた日でしたが、前日
まではかなり雨が降ったらしく道路のあちこちがひどい冠水を
していたんです。そして広い道路はまだいいものの、狭い道ほ
ど左右の路肩の少し低くなったあたりに泥水がたまっていて、
バスはその上を走ることになるために勢いよくそれを跳ね上げ
ては窓を泥んこにし続けていたんですね。何度往復しても左側
ばかりが泥をはねて、とうとうこんなガラスになってしまった
というわけ。右側の窓はセンターライン側で水をはねることは
ほとんどありません。
またバスも冠水があってもなくてもいつものように猛スピード
で走るものだから泥水の跳ね上げ方もハンパじゃなかったんで
す。
折返し運転をするのはしかたないにしても、どこかで窓を洗う
くらいできなかったのかと思いましたが、運転手さんも(左の
席に座った)乗客もあまり気にしていないようで、これも感覚
の差かなと思うしかなかったバスの話でした。
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超長距離バス
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コーチではなくローカル路線バスでしかも超長距離のバスがウ
ェールズにありました。その名はTRAWSCAMBRIA。
我々は何も知らずに途中の町からその先の町まで行くのに利用
したのですが、タイムテーブルを見てびっくり。ウェールズ南
東の端のカーディフのちょっと先から主に西海岸沿いに北上し
てスリン半島をかすめつつ北端の半島にあるスランディドノま
で一本で結ぶ路線。まさにウェールズ大縦断です。冬だと一日
に北行き南行きがそれぞれ1本。約9時間の長旅です。まあ、
最初から最後まで乗る人がいるとは思えませんが。
なら何のためにこんな豪快な路線があるのでしょう? コーチ
が走らないエリアをカバーするため? 我々が乗ったのは観光
バスタイプの大きなバスでしたが、タイムテーブルの写真を見
ると平均的な小さなバスの時もあるようで。
しかし、そういう謎はさておき、このバスが走るルートは大変
スペクタクルな風景を満喫できると言う点でイチオシです。ま
さに山の中から海岸沿いまで、渓谷を抜け、湖を眺め、遠い山
並を見はるかし、自然美を思い切り堪能できます。
スノードニアの山すそからスリン半島の先まで見下ろすスポッ
トに差しかかった時なんて、まさに言葉を失いました。運転し
ながらではここまでじっくり楽しめない(と思われる)ウェー
ルズの風景。時間のゆとりさえあればまたぜひぜひチャレンジ
したいバスの話でした。
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